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新潟地方裁判所 昭和48年(ヨ)83号 決定

当事者の表示(別紙一)当事者目録記載のとおり。

主文

債権者らの本件申請を却下する。

申請費用は債権者らの負担とする。

事実

一、申請の趣旨及び理由

債権者らの本件仮処分申請の趣旨及び理由は、(別紙二)記載のとおりであるが、なお債権者らは、運輸大臣が債務者主張のソ連邦アエロフロートを含む各航空会社に債務者主張のとおりの定期航空運送事業の免許や事業計画変更の認可をしたことは認める旨述べ、また本件申請の趣旨中「ボーイング七二七―一〇〇型級以上の航空機」とあるのは、最少限一九〇〇メートルを上回る滑走路長を必要とする航空機(具体的にはボーイング七二七―一〇〇型機及びツボレフ一五四型機の二機種)を指す旨、同じく申請の趣旨中「同空港に着陸又は離陸することを許可してはならない」とあるのは、前記免許及び認可の取消しを求めているものではなく、第一次的には、航空法九六条一項に基づき運輸大臣所部の航空管制官に対し、運輸省告示第三五九号による施設、設備が完全に実施されていない状態である新潟空港に前記ジェット機の離着陸の指示を与えてはならないことを求める趣旨であり、第二次的には、空港管理規則六条二項に基づき空港事務所長に対し航空管制官を通じて同じく施設、設備が完全に実施されていない状態の新潟空港に前記ジェット機の離着陸を禁止することを求める趣旨である旨釈明した。

二、申請の趣旨及び理由に対する答弁

債務者の申請の趣旨及び理由に対する答弁並びに債務者の主張は(別紙三)記載のとおりである。

三、証拠関係〈略〉

理由

一、債権者らは、新潟空港が昭和四六年一〇月九日付運輸省告示第三五九号による第三期施設変更を終えて供用開始となるまでの間、仮処分の方法により、第一次的には、債務者に、ボーイング七二七―一〇〇型機、ツボレフ一五四型機に対し航空法九六条一項に基づく同空港への着陸又は同空港からの離陸の指示を与えないことを義務づけることを求め、第二次的には、債務者に空港管理規則六条二項により右航空機の離着陸を禁止することを義務づけることを求めている。

二、そこで、果してこのような内容を有する仮処分が許容されるものであるか否かを検討する。

(一)  まず、債権者らが第一次的に求めている仮処分について考えてみると、債権者らが仮処分により差止めを求める航空法九六条一項の指示は、運輸大臣が(内部委任により飛行場管制業務については航空管制官)が一定空域内にある航空機に対して衝突事故の危険などを防止し航空交通の安全を確保するために離着陸の順序、時機、方法などに開し行なうものであって、航空機の航行(離着陸を含む)を前提としており、従って同条項は債権者らが前提するのとは異り、運輸大臣に航空機の航行そのものの禁止を認めた規定ではないから同条項により離着陸の指示を与えないことを仮処分によつて債務者に義務づけることは許されない。そればかりでなく、航空機は同条項による指示に従わなければならず、その違反に対しては行政罰(同法一五四条一項八号)も科されるのであって、これが運輸大臣のなす優越的地位にもとづく公権力の行使に当たる行為であることは明らかである。そうであるとすれば、行政事件訴訟法四四条は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事訴訟法に規定する仮処分をすることができない。」と規定し、公権力の行使を阻害する仮処分は、その態様の如何を問わず、また本案請求権の如何を問わず、許容していないから、債権者らが求めるような公権力行使の差止め、すなわち、公権力の不行使の義務づけを内容とする仮処分が許されないのはいうまでもない。

(二)  また、債権者らが第二次的に求めている仮処分について考えてみると、もともと空港管理規則六条二項は空港の使用(航空機の離着陸を含む)を前提として、その場合に債務者(空港事務所長)が空港使用に関し指示をしまたは使用条件を付しうることを認めている規定であつて、空港の使用そのものの禁止を認めた規定ではないから、同条項によつては仮処分の方法により離着陸を禁止することを債務者に義務づけることは許されない。

もつとも、空港管理者としての債務者は、その管理行為として必要があるときには特に明文の根拠がなくても空港の使用を拒否できるし、その拒否自体は本質的には債務者の優越的地位にもとづくものではなく、私人と同一の立場においてなされる非権力的作用であるから、債務者にこの拒否を義務づける仮処分をすることも可能であるとする見解もありうるかもしれない。しかし、かりに債務者が空港管理者として離着陸の拒否をすることができ、それ自体は非権力的行政作用であると考えることができたにしても、本件の場合にはやはり次の理由により仮処分をすることは許されない。

(1) 行政事件訴訟法四四条が公権力の行使を阻害する仮処分を許容していないことは前に述べたとおりである。右規定によつて仮処分が許されないのは、前述のような公権力の不行使を予かじめ義務づける場合に限られず、すでになされた行政処分の効力の停止を内容とするような場合も含まれる。すなわち、当該仮処分が明示的に行政処分の効力を停止しようとするものであれば勿論、そのことを明示していなくてもその内容が実質的にそのような作用を営むものであれば、行政事件訴訟法四四条の制約に触れ、許容されないのである。

(2)  もつとも、仮処分の結果、免許処分もしくは認可処分をうけた航空運送事業者がその免許もしくは認可どおりに事業を行なうことができなくなつても、このような仮処分は右行政処分の効力を停止するものであると直ちにはいえないかもしれない。しかし、少なくともその仮処分が右行政処分の違法(取消原因、無効原因に該当する事由の存在)を理由とするものであるならばたとえ右仮処分が航空運送事業者の免許もしくは認可どおりの業務遂行を直接に差止めるのでないにしても、右行政処分の効力を妨げ、これを停止する実質を有するものといわなければならない。

(3)  これを本件についてみるに、運輸大臣が債務者主張のとおり、ソ連邦アエロフロートを含む各航空会社(以下単に各航空会社という)に対し、昭和四八年五月三一日及び同年六月七日付で、定期航空運送事業の免許処分、定期航空運送事業の事業計画変更認可処分及び外国人国際航空事業の事業計画変更認可処分をしたことは当事者間に争いがない。従つて、各航空会社は、その受けた免許処分もしくは認可処分に従つて、新潟空港を含む路線にボーイング七二七―一〇〇型機もしくはツボレフ一五四型機を就航させ、それぞれその運送事業を行ないうるわけである。しかし、新潟空港が前記の第三期施設変更を終了し供用開始となるまでの間、債務者にボーイング七二七―一〇〇型機、ツボレフ一五四型機の空港使用の拒否を義務づける仮処分をした場合、右制限がなくなるまでの間、右各航空会社はボーイング七二七―一〇〇型機、ツボレフ一五四型機を新潟空港を含む路線に就航させる運送事業は全面的に不可能となる。

(4)  また、債権者らは、ボーイング七二七―一〇〇型機、ツボレフ一五四型機が新潟空港に離着陸するには同空港の施設、設備面での安全性が十分でなく、一旦事故のあつたときには債権者らは取り返しのつかない損害を蒙ることになるとの理由によつて仮処分を求めているのである。しかし運輸大臣は定期航空運送事業の免許申請や事業計画変更認可申請のあつたときには、その免許もしくは変更認可を受けようとする事業計画が航空保安上適切であるか否かの審査をしなければならず(航空法一〇一条一項三号、一〇九条二項、なお外国人国際航空運送事業については、明文の規定はないが、それはこのような審査が不要であるということを意味するものではない)、その審査の結果、事業計画が航空保安上適切でないと判定されればもとより免許処分や認可処分をすべきものではなく、また適切でないのに誤つて適切であると判定して免許処分や認可処分をしたのであれば、この判定の誤りは右行政処分の内容に関する瑕疵を構成することになるのである。従つて本件の場合においても、もし債権者らの主張するようにボーイング七二七―一〇〇型機、ツボレフ一五四型機が新潟空港に離着陸するのに新潟空港の施設、設備面での安全性が十分でないというのであれば、運輸大臣が各航空会社にした免許処分もしくは認可処分には無効原因もしくは取消原因があるということになる。つまり、債権者らが本件仮処分を求める理由として述べるところは、右行政処分の無効原因もしくは取消原因に該当する事由の主張そのものにほかならない。したがつて、このような理由にもとづく仮処分は右行政処分の効力を停止させる実質を有することはすでに述べたとおりであるから、このような仮処分はやはり行政事件訴訟法四四条により許容することはできないのである。

三、以上のとおりであつて、本件の仮処分申請はいずれの点から考えても仮処分の方法によつては求めることのできないものを求めているものというほかないから、その余の判断に立ち入るまでもなくこれを不適法として却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり決定する。

(渡辺達夫 須田贒 奥田孝)

(別紙一)

当事者目録

新潟市船江町一丁目二九番地二〇

債権者 大橋醇吉

〈ほか六名略〉

東京都千代田区霞ケ関一丁目一番地

債務者 国

右代表者 法務大臣 田中伊三次

右指定代理人 吉野衛

〈ほか一〇名略〉

(別紙二)申請の趣旨

一、債務者は、新潟空港を、昭和四六年一〇月九日、運輸省告示第三五九号(以下「告示三五九号」と云う)による第三期の施設変更を終えて、供用開始するまでの間、ボーイング七二七―一〇〇型級以上の航空機が、同空港に、着陸又は離陸することを許可してはならない。

二、申請費用は、債務者の負担とする。との裁判を求める。

申請の理由

第一、本案請求権の存在

一、当事者

(一) 債務者は、航空法に基いて、新潟空港を管理し、その施設を変更し、航空機の離陸又は着陸を許可・不許可とする権限を有するものである。

(二) 債権者大橋醇吉は、新潟市船江町一丁目二九番地二〇に宅地並びに住宅を、同大谷善一郎は同市平和町一二番地に住宅を、同安達信男は同市浜谷町甲五七番地ノ一三に宅地並びに住宅を、同高橋功は同市船江町一丁目二九番地一五に宅地並びに住宅を、それぞれ所有し、同佐久間和夫は同区船江町一丁目二九番地に、同小柳仁志、同坪井清は同市船江町二丁目二六九番地ノ二に、それぞれ居住して、生活を営むものである。

また、債権者大橋醇吉、高橋功、佐久間和夫は、告示第三五九号による施設変更後は、新潟空港滑走路Bの転移表面の投影面(以下「転移表面」という)にあり、その西側進入区域(以下「進入区域」という)に最短八〇メートルで接し、債権者大谷善一郎、同安達信男は、その水平表面の投影面にあつて、進入区域に一〇〇乃至三〇〇メートルで接し、同小柳仁志、同坪井清は転移表面にあつて、その着陸帯Bの長辺に二〇〇メートルで接する、それぞれの地点が、債権者らの住居であり、このことをもつてして、債権者らは、新潟空港に関して利害関係を有するものである。

(三) 債権者らは、新潟空港施設内で運航する、債務者所有、並びに債務者が運航を許可した航空機の騒音等によって、静穏に生活を営む権利を不当に侵害され、保安施設の不備又は航空機運航の過失から生ずる事故により、債権者らの、生命、財産に不測の危害を受けることについて、常に圧迫感を強いられているものである。

(四) 債権者大橋醇吉、同大谷善一郎(代理人として、妻大谷幸子)は告示第三五九号を告示するに先立ち、債務者が、航空法に基いて開催した「新潟空港の施設変更に関する公聴会」に、公述人として出席し、それぞれ、反対の意見を公述したものである。

二、債務者と告示第三五九号との関係

(一) 新潟空港は、昭和四年、新潟市営飛行場として開設されたが、その後逓信省、陸軍省の管理を経て、同二〇年、連合軍に占領された。爾来、同三三年三月、債務者に返還されるまでの一三年間、アメリカ合衆国空軍の基地として使用された。

この間、新潟空港の滑走路は、ほぼ南北に通ずる現在の滑走路A一本だけであつて、長さは、開設当時から一、二〇〇メートル、占領政策による整備によつて一、八二九メートル(幅四五メートル)となつた。

(二) 債務者は、返還された新潟空港を、第二種空港として整備し、昭和三五年、滑走路Aを供用開始した。同三七年、新潟空港周辺の地盤沈下対策としての阿賀野川護岸工事施工のため、滑走路A北側が短縮され、一、三一四メートルとなつた。このことと、さらに冬期の季節風に対応して有効な滑走路B(長さ一、二〇〇メートル、幅三〇メートル)を補助滑走路として、滑走路Aに交差して設置し、昭和三八年から供用を開始した。

(三) 債務者は、昭和四二年度を初年度とする空港整備五ケ年計画を策定したが、新潟空港もその中で整備の対象となり、昭和四三年五月一六日、運輸省告示一四六号によつて、滑走路Bを主体とした整備計画の原案を、次ぎの内容で告示した。

イ 総面積 一、五四二、一七〇平方メートル

ロ 着陸帯B 長さ一、六二〇メートル、幅三〇〇メートル等級D級

ハ 滑走路B 長さ一、五〇〇メートル、幅四五メートル

ニ 誘導路 長さ三、二〇〇メートル、幅二二、五メートル

ホ エプロン 面積二六、八〇〇平方メートル

ヘ 供用開始予定期日 昭和四七年四月一日

(四) 債務者は、昭和四三年五月二八日、航空法の定めにより開催した公聴会を経て、新潟空港の施設変更を、原案どおり決定し、同年七月二日、運輸省告示第二〇二号(以下「告示第二〇二号」と云う)をもつて、告示した。

(五) 債務者は、告示第二〇二号に関する工事のうち、

滑走路B東側の用地買収と三〇〇メートル延長工事

滑走路Bの拡幅工事

航空燈火設置工事の一部

などを、昭和四五年度までに完成しただけで

滑走路B西側のILS設置工事

誘導路工事

進入燈設置工事

など空港の保安機能を高める工事は、ついに実施しなかつた。

(六) 債務者は、昭和四五年五月、「日ソ航空協定」に基いて、ハバロスフクと日本国内の一地点との間に、貨物の定期航空業務を開始する問題を検討するため、交渉を行つたが、結論を見るに至らなかつた。

このころ、新潟県は、その一地点を、新潟空港に特定されることを願い、債務者に陳情を続けたが、債務者はその航空業務に就航する航空機は少くとも、ボーイング七二七型級でなければならないことと、それが離着陸するためには最低二、〇〇〇メートルの滑走路が必要であることを示唆した。新潟県は、これに力を得て、告示第二〇二号の実施を中断して、滑走路Bを二、〇〇〇メートルに延長することを債務者に求めた。

(七) 債務者は、昭和四六年八月六日、運輸省告示第二八八号をもつて、新潟空港の施設を、次ぎの三期に別けて変更する計画の原案を告示した。

イ 第一期

着陸帯B 長さ一、六二〇メートル、幅一五〇メートル等級D級(非計器用)

滑走路 一、五〇〇メートル

誘導路 延長一、八一五メートル、幅二二、五メートル

供用開始予定期日 昭和四七年四月一日

ロ 第二期

着陸帯B 長さ二、〇二〇メートル、幅一五〇メートル等級C級(非計器用)

滑走路 一、九〇〇メートル

供用開始予定日 昭和四七年一〇月一日

ハ 第三期

着陸帯B 長さ二、一二〇メートル、幅三〇〇メートル

等級C級(計器用)

滑走路 二、〇〇〇メートル

供用開始予定期日 昭和四八年六月一日

右の計画のうち、第一期とは、告示第二〇二号の内容の一部分に過ぎないものであつて、この告示当日、すでにすべての工事は、終了していたものである。また、告示第二〇二号と、この第一期が、似て非なるところは、告示第二〇二号は告示に基く、いつさいの工事を完了するならば、新潟空港の立地条件に相応した、好ましい地方空港として、しかも、ILSを装置した計器用着陸帯と、滑走路A、Bともに独自の誘導路を備えた完全な施設となるものであるが、第一期のものは、滑走路だけが一、五〇〇メートルに一致しているに過ぎず、示された誘導路は、滑走路Aに付帯したものである。即ち、第一期乃至第三期では告示第二〇二号のごとき滑走路Bの誘導路は、全然計画しなかつたことである。

(八) 債務者は、(七)の告示内容について、航空法の定めにより、昭和四六年八月二〇日、新潟運輸省合同庁舎において債務者の運輸省航空局飛行場部管理課黒野補佐官を主宰者として、公聴会を開催した。主宰者は、「新潟空港の滑走路Bを二、〇〇〇メートルに延長し、無線誘導装置をつけて、安全面で万全を期するが、四七年一〇月一日、まず一、九〇〇メートルになつた段階で、新潟・ハバロフスク間の日ソ航空路が新潟に乗り入れることになつている(要旨)」と説明した。利害関係者である一〇人の公述人から、それぞれ意見が陳述された。

賛成  六名

新潟県、新潟市、新潟商工会議所連合会、日本航空株式会社、全日本空輸株式会社、東亜国内航空株式会社

条件付賛成  二名

新潟臨港海陸運送株式会社、昭和石油株式会社

反対  二名

大橋醇吉、大谷幸子

(九) 債務者は、(八)の公聴会を経たこの計画を実施するため、同年一〇月九日、運輸省告示第三五九号をもつて、原案どおりに、新潟空港の施設変更を決定した。

(一〇) 告示第二〇二号に基く施設変更は、東、西並びに南の全域を、港湾施設、市街地、住宅地、工場群に取り囲まれる新潟空港の立地条件からすれば、保安施設の限界であるが、その反面着陸帯Bを一、六二〇メートルの計器用として、告示どおりに完全に整備するならば、新潟空港の機能は飛躍的に増大したはずである。ところが、告示第三五九号は、新潟空港の立地条件と保安面を無視した政治的、商業主義的願望を論拠に滑走路B二、〇〇〇メートル計画を、そのまま航空法による施設変更に当てはめたものであるので、結果として、私権の著しい制限、工事上の障害、保安度の低下などを招来した。そのうち、主だつたものを示せば次のとおりである。

イ 着陸帯五〇〇メートルの延長は、水平表面の半径が三、〇〇〇メートルに拡大するため、その投影面に、危険地帯と指定されるべき昭和石油新潟製油所(平和町所在)、日本瓦斯化学松浜工場(松浜町所在)がはいり、45.81メートルを超えて高さ制限を受けるべき両工場群内の諸施設、南部一帯の高圧送電塔多数が林立し、危険度が増大した。

ロ 標点標高0.81メートルで滑走路Aが施設され、これと同標高で滑走路Bが交差しているというのに、滑走路Bの東側は、標高三メートルの阿賀野川堤防に、西端は標高4.5メートルの船江町海岸防潮堤に、ほぼ密接する配置となつていることは、滑走路両末端に向けて不自然な勾配を強いられることになる。

ハ 着陸帯B西側の一部は、海中へ突出する設計であるため、これを施工した場合、日本海特有の激浪と海岸浸食が、工事そのものの障害となるばかりでなく、施設維持の困難性も必至であり、危険を招来する原因となりかねない。

ニ ましてや、計器誘導着陸装置や進入燈が、日本海の海中に設置をされるとなると、工事も維持も困難であり、冬期間の波浪、塩害等が、装置や、電波に障害を及ぼすならば着陸時の重大事故に直接つながる恐れが生ずる。

ホ 阿賀野川河口を斜断して、約六〇〇メートルの進入燈が設置されることは、漁業権が侵害されるだけでなく、水害時においては、水防上、障害となり、阿賀野川河口の両岸に損害をもたらす。

ヘ 滑走路Bの東側からの着陸の際は、松ケ崎台地とその市街が、進入角度すれすれであるため、極めて危険である。

ト 用地として、船江町二丁目地内の約六万平方メートルの私有地の買収が必要となり、この中に一三世帯の住民の立退きが求められる結果となる。

チ 新潟空港で、ジェット機の離着陸は、昭和三三年、アメリカ空軍の撤退以来、絶えてなかつたのであるのに、施設変更後、ジェット機が就航するならば、その騒音によつて、周辺住民の静穏権が著しく侵害される。

(一一) 債務者は、告示第三五九号に基く工事のうち、すでに施工済みの第一期以外は、滑走路一、九〇〇メートルと非計器用着陸帯、航空燈火、東側侵入方向に計器誘導装置を、昭和四七年度までに完成、阿賀野川水面に進入燈三〇〇メートルを同四八年度に入つてから設置したが、予定期間内に、着陸帯Bを二、一二〇メートルの計器用として完成するための何等の工事をも実施しなかつた。

(一二) 債務者は、告示第三五九号で、第二期の着陸帯Bは非計器用(幅は一五〇メートル)として、第三期は着陸帯Bを計器用(幅は三〇〇メートル)として明確に区分して告示している。もし、仮りに着陸帯Bを二、〇二〇メートル(滑走路は一、九〇〇メートル)、計器用として供用を開始するならば、着陸帯の幅は三〇〇メートルを必要とすることは、航空法施行規則第七九条三号により厳格に規定されており、新潟空港の場合、それを短縮すべき何等の理由も存在していないことは、告示の当日において認めているものである。

(一三) 債務者は、空港の保安施設、構造が設置基準に適合しているとしてもそこに離着陸する航空機の機種の性能、なかんづく離陸・着陸滑走路長などは、航空運送事業の免許等に際し、じゆうぶんに考慮しなければならないところである。

(一四) しかるに、債務者は、本件申請時において、新潟空港の着陸帯Bが、長さ二、〇二〇メートル、そのうち西側約四分の一が計器用としての幅を確保していないにもかかわらず、C級、計器用の扱いとして供用を開始しようとすることは、違法であり、国際規則にもとることを知りながら、あえて例外的な適用を期待している。

このことは、航空保安上極めて危険な措置であり、新潟空港の安全性を著しく低下させるものである。

(一五) 債務者は、本年六月四日から一二日までの間、三日間にわたり、定期航空運送事業の審査のため、ボーイング七二七型機による審査飛行を行い、六月一五日から国内線、国際線(六月一日をもつてハバロフスク線を免許)ともに、ボーイング七二七型機級以上の航空機を新潟空港に離着陸を許可する予定を立てている。

三、債権者と新潟空港保安施設との利害関係

(一) 債権者らは、新潟空港用地に近接する所に居住して生活し、航空法上の保安施設の影響下にあつてその規制を受け、その利害関係者である。また、航空機運航による騒音等で、平穏に生活を営む国民の権利を侵害され、空港保安施設の欠陥や、運航上の過失等により発生が予測される航空機事故とそれによつて蒙る債権者らの不利益等に対する圧迫感について、常に受忍しているものである。

(二) 債権者大橋醇吉は、昭和三七年滑走路Bが供用開始となるまでの間、新潟県総合開発課、新潟空港小野空港長らをとおして、滑走路設置について、その方位や、保安施設に関することについて陳情し、債権者らの意向を取り入れられるよう努力した。

(三) 債権者大橋醇吉は、告示第二〇二号実施を契機に、新潟市船江町並びに平和町の自治(町内)会長九名に呼び掛けて、新潟空港公害対策協議会を結成し、自から事務局長として、他の債権者らと活動してきた。その活動の中で、告示第三五九号までの間の成果の主だつたものをあげれば、次のとおりである。

イ 全日本空輸(株)との話し合いで、同社八尾訓練所を新潟へ移転することを新潟県知事と了解したことを中止せしめた。

ロ 新潟空港長との話し合いで、日本航空(株)仙台訓練所の練習機が新潟空港で訓練することを制限し、後に、中止せしめた。

ハ 新潟空港長並びに航空自衛隊新潟救難群隊長と話し合い訓練の航路を住宅地上空を経由することを変更せしめた。

ニ 日ソ航空協定に基く局地間航路の一地点を、新潟空港に指定されないよう、ソ連邦民間航空省大臣ボリス・パーブロビッチ・ブガエブに陳情し、当面羽田を指定することになつた。

(四) 債権者らは、告示第三五九号を実施を前提とする用地買収に反対し、特に、立退きを予測される船江町二丁目八一番地岩崎熊太郎ら一三名を支援してきたが、告示後は、移転の条件として、新潟県企画開発部を窓口に指定し、話し合いの結果、移転先用地の取得、住宅建築などで有利な条件を引き出して前記一三名の移転が終り、その結果、第二期はもちろん第三期の工事を債務者が進めるに当り、支障なからしめた。

(五) 債務者が、昭和四六年八月二〇日、新潟空港の施設変更に関する公聴会を開催するに当り、債権者大橋醇吉、同大谷善一郎代理人妻大谷幸子が出席し、反対意見を公述した。

(六) 債権者大橋醇吉は、昭和四八年六月一日、債権らの協議の結果に基いて、債務者の運輸大臣新谷寅三郎に対して、新潟空港が告示第三五九号による施設変更が完了するまで、ボーイング七二七―一〇〇型機等を新潟空港で離着陸せしめないよう申し入れた。しかし、債務者の運輸省航空局は、新潟空港が適法であること、債権者の特定する航空機は、乗客数、貨物量等を制限することにより、安全に離陸又は着陸することができることを主張してやまなかつた。

四、本案請求権の存在

(一) 空港機能の中心は着陸帯と滑走路であるが、その規模は航空機の最大級のものによつて決まる。また、空港保安施設の安全性は、単に、その規格や機能のみによつて判断されるべきものではなく、そこに離着陸する航空機の機種、航空従事者の慣熟度が左右する場合も多い。

新潟空港の場合、ボーイング七二七―一〇〇型機を離着陸させるには滑走路は最低二、〇〇〇メートル必要であるとの発想から、告示第三五九号に到達したのであるいきさつからも、完備された二、一二〇メートルの着陸帯でない限り、ボーイング七二七―一〇〇型機が、新潟空港に離着陸することは、安全性を著しく失することになり、そのことは、航空機の運航自体も危険であるし、離着陸時に事故が一旦発生した場合は債権者らの生命又は財産に損害を与えるであろうことは、国内、国外の航空機事故の実態から見ても明らかである。

(二) 債務者は、航空法第一〇二条第一項によつて、定期航空事業者の用に供する航空機の検査を行う場合、特定の機種のデーター、たとえば、離陸・着陸滑走路長が、特定の空港の基準施設の寸法に合うか、合わないかの判断を下し、合格の可否を決定する権限を有する。

故に、ボーイング七二七―一〇〇型機の離陸・着陸滑走路長は、本件申請時における新潟空港の滑走路長に合わせた場合、相応しないと判断されるべきである。

ボーイング社によつて公表された、ボーイング七二七―一〇〇型機の性能データーによれば

離陸滑走路長 六、四五〇フィート(一、九七〇メートル)

着陸滑走路長 四、六〇〇フィート(一、四〇〇メートル)

と明示されているが、通常、ボーイング七二七―一〇〇型機に対する空港標準寸法は、滑走路二、〇〇〇メートルを必要としている。

また、債務者が発表したところによると、ソ連邦のアエロフロートが新潟空港に乗り入れする、ツポレフTu一五四型機は、本件申請時、本邦には、いまだ一回も着陸したことのない機種であるが、その性能データーによれば、

離陸滑走路長 二、一〇〇メートル(六、九〇〇フィー卜)

着陸滑走路長 二、〇六〇メートル(六、八〇〇フィート)

とされており、離陸・着陸に差の少いことは、ボーイング七二七―一〇〇型機の比ではないし、より長い滑走路を必要とすることは、明白である。

(三) そもそも、空港の保安施設の基準は、航空法並びにその関連法令によつて定められるが、その法源は、債務者が加入する国際民間航空条約(昭和二八年一〇月八日、条約第二一号)と、その第一四付属書に規定されるものでこれは、加盟国すべて同一の規格を厳格に実施することを求めている。

このことは、国際民間航空機構(ICAO)に加入している、いないにかかわらず、緊急着陸の必要に迫られた航空機は、空港の規格、規模を知るのみにて、共通の運航方法によつて着陸することをも助けており、国内の航空従事者の慣熟のみにて基準を拡大運用することは許されないものである。

ましてや、新潟空港が、国際定期航空事業に供用されるとするならば、離着陸する航空機の機首と施設の許容限界は、条約の精神からも、規定からも、厳正であらなければならない。もし、ツポレフTu一五四型機が新潟空港施設内で事故を発生した場合、まず論じられるのは、施設の基準が厳正であつたかどうかであつて、姑息な措置による施設の省略とか、規格の短縮とか、又は、債務者の運輸大臣の認許事項に、無用な例外措置が、仮りにあつたとするならば、債務者が、その責めを負うだけでなく、国際関係に好ましくない影響を及ぼすこと明白である。

(四) 債務者が、運輸大臣をして、ボーイング七二七―一〇〇型機を、新潟空港を含む航路に、就航を認めさせたり、新潟空港専任管制官をして、同型機に、離陸・着陸の許可を与えさせるなどの結果、空港周辺で航空機事故が発生した場合、債権者もこのために不利益を受けることは免れないので、新潟空港が、同機種の離着陸に相応する保安施設が整備、即ち、告示第三五九号による施設変更がなされない限り、本件仮処分を求めることができると云うべきである。

第二、仮処分の必要性

債権者の立場にあつては、空港の施設変更に関連して、通常関与できる機会は、航空法第三九条第二項に定める公聴会だけである。その公聴会での公述人の多数意見が、債務者の計画に賛成し、結果として、原案どおりに告示され、実施されることは止むを得ないことである。ところが、航空保安施設に関する限り、権限なき者は、施設に立ち入りて、工事の進捗状況、完成の結果などを審査することのできないことを、よいことにして、告示された内容が、そのとおり実施されないとか、債務者の裁量で勝手に変更されたことについて、利害関係者たる債権者らに告知もなされず、しかも、航路免許に一週間足らずに差し迫つてから、債務者の指定する新潟空港長から、就航機種が、ボーイング七二七―一〇〇型、並びにツポレフTu一五四型であることが示される如きは、利害関係者の権利を著しく侵害するものである。

債権者らは、両機種が、新潟空港に離着陸するについて、それを差止める権限もないことと、航空法上にも、その手続きが定めてなく、また、他の手段をもつてしては、その離着陸の予定される本年六月一五日までに、結論を得ることはできないので、本件仮処分命令を得ることが必要なのである。

(別紙三)申請の趣旨に対する答弁

債権者らの各申請を却下する。

申請費用は債権者らの負担とする。

との裁判を求める。

申請の理由に対する答弁

第一 「本案請求権の存在」についての認否

一 当事者について

1 同(一)のうち、債務者が新潟空港を管理し、その施設を変更する権限を有することは認める。その余の事実は争う。

2 同(二)の前段のうち、債権者らが同項記載の住所に居住していることは認める。

その余の事実は不知。

同項の後段のうち、債権者ら主張のとおり告示第三五九号による施設変更が完成した場合には債権者大橋醇吉、同高橋功、同佐久間和夫、同小柳仁志、同坪井清の住居が新潟空港滑走路の転移表面の投影面に、債権者大谷善一郎、同安達信男の住居がその水平表面の投影面に位置することになることは認める。その余の事実は不知。

3 同(三)は争う。

4 同(四)のうち、債権者大橋醇吉、大谷幸子が債権者ら主張の公聴会に出席して意見を述べたことは認める。

二 債務者と告示第三五九号について

1 同(一)は認める。

2 同(二)は認める。

3 同(三)は認める。

4 同(四)は認める。

5 同(五)は認める。

6 同(六)の前段は認める。

同後段のうち、債務者が新潟県から日ソ航空協定にもとづいて、ハバロフスクと日本国内の一地点との航路を開設するにつき、その地点として新潟空港に特定するよう陳情を受けたこと、債務者が新潟県から滑走路Bを二〇〇〇メートルに延長するよう要請を受けたことは認める。その余の事実は争う。

7 同(七)は認める。ただし、着陸帯Bにつき「(非計器用)」あるいは「(計器用)」という記載は同項記載の告示には掲載されておらない。

8 同(八)は認める。

9 同(九)は認める。

10 同(一〇)は争う。

11 同(一一)のうち、債務者が、昭和四七年度までに債権者ら主張の工事を完成したこと、また、昭和四八年度に入つて阿賀野川水面に進入燈を設置したことは認める。その余は争う。阿賀野川水面上の進入燈の長さは四五〇メートルである。

12 同(一二)は争う。なお、債務者が告示第三五九号をもつて着陸帯Bを計器用、非計器用に明確に区分して告示したことはない。

13 同(一三)は認める。

14 同(一四)のうち、新潟空港の着陸帯Bの長さが二〇二〇メートルであることは認める。その余は争う。

15 同(一五)のうち、債務者が本年六月四日から一二日までの間、三日間ボーイング七二七型機による審査飛行を行なう予定であることは認めるが、その余は争う。

右審査飛行は航空法(以下単に法という。)七二条による機長の路線資格認定のための審査である。

三 債権者と新潟空港保安施設との利害関係について

1 同(一)は争う。

2 同(二)は認める。

3 同(三)は不知。

4 同(四)のうち、新潟市船江町二丁目八一番地岩崎熊太郎ら一三名らが、告示後、土地買収により移転したことは認める。その余は不知。

5 同(五)のうち、債権者大橋醇吉、大谷幸子が債権者ら主張の公聴会に出席し、反対意見を述べたことは認める。

6 同(六)は認める。

四 本案請求権の存在について

1 同(一)は争う。

2 同(二)のうち、ボーイング七二七―一〇〇型機およびツボレフ一五四型機(以下、これらを本件ジェット機という。)について同項記載のような性能データが公表されていることおよびソ連邦のアエロフロートが新潟空港に就港させることになつているツボレフ一五四型機が本邦に未だ一回も離着陸したことがないとの点は認める。その余は争う。

ただし、右公表データにおける数値はいずれも気温一五度C、標高〇メートルの状態において最大重量の状態において離着陸する際のものである。

また、運輸大臣が法一〇二条一項の規定による運航開始前の検査、または法一〇九条の認可をするに際し付した法一二五条の認可条件としての運航開始前の検査において判断するのは、当該免許または認可にかかる事業の用に供する航空機等が申請の趣旨どおりの機能、設備を具備しているかを検査するのみである。

3 同(三)のうち、わが国が国際民間航空条約(以下、単に条約という。)に加盟していることは認める。

4 同(四)は争う。

第二 「仮処分の必要性」についての認否

同第二のうち、航空法施行規則(以下、単に規則という。)八〇条において定められている利害関係人には法三九条二項に定める公聴会に出席して意見を述べる機会が与えられていること、権限のない者は航空保安施設に立ち入り、工事の進捗状況、完成の結果などを審査することができないこと、空港事務所長が周辺住民等に就航機種が本件ジェット機であることを示したこと(その時期は昭和四八年五月二二日から同月三一日までである。)は認める。その余は争う。

債務者の主張

第一 本件申請は不適法である。

一 債権者らは、債務者に対し、民事訴訟法七六〇条により、「ボーイング七二七―一〇〇型級以上の航空機が、新潟空港に、着陸又は離陸することを許可してはならない」旨の仮処分を求めている。

債権者らのかかげる申請の趣旨は、「ボーイング七二七―一〇〇型級以上」とある点において、また離着陸を「許可してはならない」とする点においてその趣旨が不明確であり、差止める対象を特定しているとはいいがたいが、申請の理由から忖度すれば、後に述べる運輸大臣が免許ないし認可した本件ジェット機の新潟空港への離着陸の不許可、いいかえれば離着陸の禁止命令の発令を求めている趣旨と解される。

これは、運輸大臣が航空機に対する離着陸の許可、不許可をなす権限、いいかえればかような離着陸の禁止命令を発する権限を有することを当然の前提とするものであるが、運輸大臣にかかる権限を付与した法律の規定は、そもそも存在しないから、かような仮処分は、本来そのような行為をなしえない者に対してその行為を命ずることに帰着し、民事訴訟法七五八条一項にいわゆる「申立ノ目的ヲ達スルニ必要ナル処分」といいがたいことは、多言を要しないところである。航空法その他の法規にてらし、債権者らの申請の趣旨を善解すれば、およそ次の四個のいずれかの仮処分を求めているのではないかと推測される。

1 運輸大臣に対して、法一〇〇条の免許および法一〇九条、一二九条の三第二項の認可をしたことにより可能となつた本件ジェット機の新潟空港への運航を差止めるべきことを求めること。

2 空港管理規則六条二項により、空港事務所長に対して、管制官を通じ本件ジェット機の離着陸を禁止すべきことを求めること。

3 法九六条により運輸大臣(所部の航空管制官)に対し本件ジェット機の離着陸を禁止すべきことを求めること。

4 運輸大臣に対し、法一〇二条の運航開始前検査において不合格とすることにより、運航開始をせず、もつて本件ジェット機の離着陸を不能とさせることを求めること。

二 しかし、右各仮処分は次に述べるような理由により、いずれも許されない。

1 法一〇〇条の免許、法一〇九条、一二九条の三第二項の認可について、

(一) 債権者らは、申請書中、申請の理由第四項(四)において「債権者が、運輸大臣をして、ボーイング七二七―一〇〇型機を、新潟空港を含む航路に、就航を認めたり・・・・」と述べているが、運輸大臣が、運航開始予定日を本年六月一五日とするボーイング七二七―一〇〇型機の就航を認める定期航空運送事業の免許処分および事業計画変更の認可処分、ツボレフ一五四型機の就航を認める事業計画変更の認可処分をすでになしていることは次に述べるとおりである。すなわち、

(1) 定期航空運送事業を経営しようとする者は、路線ごとに運輸大臣の免許を受けることとされており(法一〇〇条)、右免許の申請書には、運航開始予定期日、路線の起点、終点、使用航空機の型式等を記載することとされているところ、日本航空株式会社から昭和四六年四月一六日(ただし、昭和四八年五月一五日付で運航開始日を昭和四八年六月一五日とする変更願を提出)新潟―ハバロフスク間、運航開始予定期日昭和四八年六月一五日、使用機型式ボーイング七二七―一〇〇とする路線免許申請がなされたため、運輸大臣は法一〇一条一項にもとづく審査をし、同条一項各号の基準に適合していると認めたため、同年五月三一日同条二項により定期航空運送事業を免許した(疎乙第一号証の一〜三)。

(2) 定期航空運送事業者が、事業計画を変更しようとするときは、運輸大臣の認可を受けることとされている(法一〇九条)が、全日本空輸株式会社は、昭和四八年五月一四日付で運輸大臣に対し、休止中の新潟―札幌間を同年六月一五日から毎日一往復便、ボーイング七二七―一〇〇型およびYS―一一型機を使用して運航する旨の、東亜国内航空株式会社は、同年五月一二日付で運輸大臣に対し、東京―新潟間に運航している航空機の機種を同年六月一五日からボーイング七二七―一〇〇型機とする旨の、各申請書を提出したため、運輸大臣は、法一〇九条二項において準用する法一〇一条の規定にもとづき審査をし、右各申請が同条一項一号ないし四号に適合していると認められたため、同年五月三一日事業計画変更の認可をした(疎乙第二号証の一〜四、同第三号証の一、二)。

(3) また、外国法人であるソヴイエト社会主義共和国連邦(以下、単にソ連邦という。)のアエロフロートは、従前から、東京―モスクワ間、東京―ハバロフスク間の航行により旅客または貨物を運送する事業を経営するため運輸大臣の許可(法一二九条)を受けていたものであるが、昭和四八年五月一六日東京―ハバロフスク間のツボレフ一五四型機による週一往復便の運航を新潟―ハバロフスク間に事業計画を変更する旨を含む事業計画変更申請書を提出したので、運輸大臣は法一二九条の三第二項により同年六月七日付でこれを認可した(疎乙第四号証の一、二)。

(二) 以上のとおり、本件ジェット機の新潟空港への運航については、すでに運輸大臣の免許および認可がなされている以上、前記各航空会社およびソ連邦は、新潟空港に本件ジェット機を運航させる(このことには、離着陸も含むのは当然である。)権利を有する。債務者としては、かかる免許ないし認可処分を取消さないかぎり、右権利を妨げることができないことはあまりに明らかである。しかして、運輸大臣がなした前記の免許処分、事業計画変更認可処分は、行政庁が、その優越的地位にもとづきなした行政処分であるから、民事訴訟法による仮処分によりその効力を妨げることは、行政事件訴訟法四四条の規定に照らし、許されないものというべきである。

2 空港管理規則六条二項について

空港事務所長は、空港の使用者に対し、航空機による空港の使用について空港管理上必要な指示をし、または条件を附することができる(空港管理規則六条二項)。

右の指示等は、航空管制官を通じて、航空機の機長に伝達することができる。しかし、空港事務所長は運輸大臣の所部職員であるから、運輸大臣がなした処分じたいをくつがえす処分をなしえないことは明らかである。ところで、債権者らが、禁止命令を求める根拠は、新潟空港に欠陥があるとすることによることは主張じたいによつて明らかであるが、後にも詳述するとおり、運輸大臣が、新潟空港の施設等の安全性をも勘案したうえ機種を特定して免許ないしは認可等をした以上、空港事務所長が、当該免許ないしは認可にかかる航空機種に対し、滑走路に亀裂を生じた場合等特段の空港管理上必要な事由が発生しない限り離着陸を禁止することはできないことは明らかである。

3 法九六条にもとづく航空管制官の指示について

運輸大臣は、航空交通管制区または航空交通管制圏において航空機の離着陸の順序・時期・方法、飛行方法を指示することができる(法九六条)。そして、この権限のうち、飛行場管制業務にかかるものは、規則二四〇条一項三三号により地方航空局長に、さらに規則二四〇条の二第一項により空港事務所長に委任されているが、新潟空港事務所には航空管制官が置かれ(空港事務所等組織規則二一条一項)、航空管制官が飛行場管制業務をつかさどるものとされているので(同規則二一条二項一号)、右業務をつかさどる権限は、空港事務所長からさらに、航空管制官に内部委任されている。しかし、かかる権限は、離着陸または飛行場附近での衝突等をさけるための交通整理的な役割にとどまることは、法九六条の例示するものによつても明らかであり、飛行場の施設を理由として、特定の航空機の離着陸を禁止することはその権限をこえるものである。

4 法一〇二条の運航開始前検査について

法一〇二条の運輸大臣のする運航開始前検査において判断しうるのは、被免許者の事業の用に供する航空機その他の施設が、免許を受けたとおりの機能等を具備しているか否かにかぎられるものであつて、免許を受けた機種の航空機を準備したことをもつて不合格となしえないことは当然である。

債権者らの主張するごとき、飛行場等の設備と航行する機種との関係は、運輸大臣の免許(法一〇〇条、一〇一条)、事業計画の変更の認可(法一〇九条)、航行の許可(法一二六条)に際し、十分に考慮さるべきことである。

三 以上検討したとおり、債権者らの求める本件仮処分は、関係法規にてらしいかに善解してみても、結局において、運輸大臣のなした前記行政処分の効力の排除を求めずしては、なしえないものである。かかる仮処分が、行政事件訴訟法四四条にてらし、なしえないことは明らかである。

第二 債権者ら主張の被保全権利の不存在および仮処分の必要性の欠如について

一 すでに詳述した本件仮処分申請の不適法性が、かりに認められず、本件申請の当否について審理がなされるとしても、債権者ら主張の被保全権利は認められず、仮処分の必要性もまた肯定するに由なきものである。

このことは、昭和四八年六月一五日から新潟空港を発着点として本件ジェット機が就航することについては、法規上はもとより諸般の技術上の観点からも十分の審査検討が加えられており、違法のそしりを受けるものでは毫もなく、保安設備上の安全性も確保されているものであることを論拠とするものであり、これらの点について以下項を分つて主張・説明を展開する。

二 債権者らが本件仮処分の被保全権利として主張するところは、要するに、

1 債権者らは、新潟空港に本件ジェット機が就航することにより各人の生命・身体、財産が危険にさらされるおそれがあるので、その妨害予防請求権を有する。

2 右危険は、昭和四六年一〇月九日付告示第三五九号(疎甲第五号証)に掲載されている着陸帯および滑走路の各長さ、ならびに着陸帯の幅についての延長拡幅工事が未了であることに原因があり、特に、右拡幅の点は、新潟空港滑走路を計器用のそれとして供用する前提要件であるのに、右のとおり工事未了のまま、違法にも計器用滑走路として供用開始を目指している。というのである。

三 本件ジェット機の就航と新潟空港の滑走路の保安設備の適法性について

そこで、まず、前記のとおり予定されている本件ジェット機の就航およびこれに附随してとられている措置が新潟空港滑走路の保安設備との関係から適法なものであることを明らかにする。

1 まず、本件で問題とされている新潟空港着陸帯Bは、前記告示第三五九号にいわゆる第二期工事を完了した状態にあり、右告示の記載から明らかなように、その等級は、C級である(なお、等級の根拠につき規則七五条二項参照。)から、これを計器用として使用するには、規則七九条三号の規定により原則として三〇〇メートル以上の幅を必要とするものであるところ、法九九条、一三七条一項、規則二四〇条一項三三号、二四〇条の二第二項にもとづき東京国際空港長(航空情報課)により発せられた昭和四八年五月二〇日付ノータム(疎乙第五・六号証、なお、同第七号証の四)によれば、新潟空港は同年六月一五日から計器進入方式(ILS)が採用されるものとされている。債権者らは、右の幅員をとらえ、違法な処分であると主張するが、右主張が理由のないことは、次にのべるとおりである。

2 規則七九条三号は、滑走路等の設置基準を定めたものであるが、特別の理由がある場合には例外的運用を許すものであることは、文理上明白である。

同条項の特別の理由とは、右基準に適合することを妨げる事由が存在するにもかかわらず、客観的見地からこれを補い、航行の安全になんら支障を生じないことが明らかな場合をいうものと解すべきである。

3 この基準に照らして本件をみれば、本件着陸帯の幅が現に一五〇メートルであることは債権者らの主張のとおりであるから、それにもかかわらず前記のとおりこれを計器用に使用しうるか否かは、本来不足とするその余の一五〇メートル部分に対する補強条件の有無如何に帰着するものというべきところ、その補強条件が存在することは次のとおりである。

(一) 一般に計器着陸用施設を有する滑走路に計器進入着陸を許容する場合には、「計器飛行による進入方式・出発方式及び最低気象条件の改定基準」(四六・三・一二制定空航第一〇五号(内規)(疎乙第八号証の一ないし三)により地上二〇〇フィートまで計器誘導がなされるものとされているが、前記ノータムによれば、新潟空港における計器進入は二五三フィートまでと制限し、新潟空港の状況に対する配慮が払われている。

ちなみに、二五三フィートと数値を高めた具体的理由としては、当該航空機が、計器誘導により二五三フィートまで降下し、滑走路等が視認できない場合においても安全十分な余裕をもつて進入復行の措置を講じうることを見込んだものである。

(二) また、本件着陸帯Bは、実質的には、三〇〇メートルの幅を備えているとみることもでき、C級計器用着陸帯としての実体を相当程度に備えているものである。すなわち、本件着陸帯Bの用地は、疎乙第九号証の写真のとおりの形状を備えており、北西隅部分において全面積に比すれば極めて僅かな三角状の地域が海面部分となつているものの、この部分を除けば、その幅は三〇〇メートルの地域を確保しており、しかも、その全域は全体的にみれば、おおよそ平坦な地域であるから、万一の場合には三〇〇メートル幅の着陸帯としての不足部分を相当程度に補う効用を発揮しうるものである。

(三) さらに、後記のとおり安全航行についての各般の配慮が法規上も事実上も払われているところにてらせば、同空港の着陸帯の幅が一五〇メートルとして供用開始されるとしても、新潟空港において計器着陸用施設による計器進入方式を採用することと何ら矛盾するところではない。このことは、航空機の航行に関与するものにとつては常識であり、航空関係者は、新潟空港の着陸帯の幅員が一五〇メートルであることを万々承知し、これに見合う航行方法により対処するものなのである。

4 右(一)ないし(三)の理由により、新潟空港着陸帯の幅は一五〇メートルであるにかかわらず前記ノータムによる計器進入方式を採用したことは、規則七九条にいわゆる特別の理由が存在する場合であつて、なんら違法のそしりを受けるものではないというべきである。

四 本件ジェット機の就航と新潟空港の安全性について

つぎに、前記法規による飛行場の設置基準の観点を離れ、新潟空港に本件ジェトッ機が就航するについての安全性が他の航空機の発着に比し劣るものでないことを主張する。

1 まず、新潟空港の滑走路等がいわゆる第二期工事においていかなる観点からいかなる段取りを経て実施されたかについては、疎乙第一〇号証のとおりである。

2 つぎに、新潟空港の具体的諸条件がいかなる状況にあるかは、次の方法により公表され、航空関係者に対する周知徹底が図られている。

(一) 条約三七条にもとづく条約第一五付属書(疎乙第七号証の一、二表紙および目次)記載の航空路誌(同号証の三)を発することにより公表する。

ちなみに、新潟空港に関する最新の航空路誌は、疎乙第一一号証のとおりである。

なお、ソ連邦においても、右条約は、昭和四五年一一月一四日条約への加入効力を生じた(疎乙第一二号証の一、二)。

(二) 状況の変更については、法九九条による情報の提供として公表される。

右(一)(二)により航空関係者は、新潟空港の諸条件を十分認識し、その認識にもとづいて同空港における離着陸の安全を図つているものである。

3 そして、当該航空機が特定の飛行場に離着陸するに際し、安全航行が図られる根拠としては、耐空証明制度および運用限界等指定書の制度がある(法一〇条、疎乙第一三号証同第一四号証)。すなわち、航空機があらゆる用途、速度、重量等について耐空性があることを証明することは不可能であるので、耐空証明は航空機の用途、運用限界を指定して行なうものとされている(同条三項)。

耐空証明を申請する者が申請に添付すべき書類が規則一二条の二第二項に定められているが、これによるぼう大な書類のなかに飛行規程があり(区分一の六)、この飛行規程に記載すべき内容については、規則一二条の二第三項に定められ、同項二号には航空機の限界事項が定められている。法一〇条三項の規定をうけて規則一三条に飛行規程の運用限界を指定することとなつている。航空機の離着陸性能は大気の状態(気温、風向、風速等)、飛行場の標高等に大きな影響を受けるので、同一飛行場(同一滑走路長)であつても、同じ重量で離着陸できるとは限らず、その性能上の限界も飛行規程の運用限界の一項目である。したがつて、使用する飛行場の滑走路長、標高、大気状態等の諸条件により算出される性能上の限界による離着陸重量(許容最大離着陸重量)以下の重量で離着陸を行なうことは安全上何ら支障はない。また航空機はその構造上の理由等から最大離着陸重量等が定められているが、常に最大離着陸重量で離陸する必要はない。つまり、航空機は最大有償搭載量(人数、貨物等)が限定されているので、それ以上の搭載はできず、飛行の実施にあたつては最大搭載量に、法六三条規則一五三条に定める燃料の量を搭載すれば足りるので、比較的飛行距離が短い場合は最大有償塔載量を積んでも最大離陸重量以下の重量で離陸することとなる。

前記耐空証明書の記載内容は規則一六条に、前記指定書のそれは同一三条にそれぞれ定められており、航空機はこれらに従つて空港設備等の諸条件に適合した航行により安全性を確保するものであり、このことは、さらに、航空機の機長は法七三条の二、規則一六四条の一六(昭和四六年一一月二五日運輸省令六三号による改正前の同条の三に同じ。)の規定により出発前に重量等を確認するよう義務づけられており、限界事項を超えて飛行を開始することはできないものとされ、しかも、定期航空会社に対しては、運航管理者制度があり、国家試験による技能検定を受けた運航管理者の承認を受けなければ航空機を出発させてはならないものとされている(法七七条、七八条)ことにより担保されている。

なお、ソ連邦の航空機の航行方法、耐空性等による航行の安全は、ソ連邦の国内法規に準拠する諸制度が法一三一条三号(法一二九条一項)の規定によりわが国においても有効なものと定められていることにより、保証されているものである。ソ連邦における右諸制度が航行の安全に十分配慮しているであろうことは、前記のとおり同国が条約への加入の効力を生じており、条約はその締約国における関係法規等の統一を図ることとし(三七条)、たとえば、運航関係および整備関係の航空従事者の免許については条約第一付属書(疎乙第一五号証)により、航空機の耐空性については同第八付属書(疎乙第一六号証)によりそれぞれの国際的標準が定められていることから推して明白というべきである。

右1ないし3のような諸施策があるいは法規の定めにもとづき、あるいは事実上の要請から講じられているので、本件ジェット機が新潟空港に離着陸することとなつても、債権者らの危惧するような理由による事故の発生は到底予測しえないものというべきである。

五 以上のとおりであるから、先きに摘示した債権者ら主張にかかる本件ジェット機の就航による危険性なるものは、たやすく肯認しうるものではなく、むしろ理由にとぼしい疑惑にすぎないものと考えられる。したがつて、本件申請は、いずれも前提において理由を欠き、本節冒頭に述べたとおり被保全権利および保全の必要を認めるに由なきものである。

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